灰色スーサイド       砂羽月


第一章 灰色の世界で、僕は


 こんな世の中にいったい、どんな価値があるのだろう。
 そんなことをただひたすらに考え続けている、そんな夜だった。
 闇に包まれた道には僕以外誰一人として確認することができない。
 世界は僕だけで構成されているんじゃないかと思えるくらいだった。
 僕は夜中に家の近所を徘徊するのがとても好きだ。
 目的があるわけでもなく、ただ、夜の静けさと同化する。
 これがとてつもないくらいに気持ちがいい。
 ただ、こういうことをしていると、情緒不安定だと勘違いされたり、認知症を抱えている人みたいだ、などと差別的な用語を並べられたりして非常に悲しい。
 そこで、僕は毎回、改めて、世の中というのはなんて腐りきっているのだろうと思うのである。
 そして、心の中で、こうつぶやくのだ。
 死んでしまえ。
 死んでくれ。
 死んでよ。
 死ねよ。
「死ね」
 死ねの五段活用(誤用なのは百も承知)でこの世の中を否定する。否定して、否定して、否定する。完膚なきまでに否定する。
 肯定なんてできるか。
 この世の中を、僕は絶対に許さない。世界が変わらない限り、絶対に許すことはないだろう。
 ただ、これだけじゃあ、僕が充実している奴らを妬んでいるかのように聞こえてしまう。
 けれど、それは違う。
 まだこの世界を許せない理由はある。
 僕はズボンのポケットからスマホを取り出す。時刻は九時過ぎだった。アプリを起動させてスマホの中の写真を表示させる。
 そこには、僕とアイツ(彼女ではない)が写っている。
 とはいっても、一年くらい前の話なんだけれど。
 アイツは横断歩道を普通に渡っていたら、べろべろに酔っていたおっさんが運転していた車に撥ねられて、重症。
 今は病院で入院生活だ。
 それで、そのおっさんはあとからこう言ったらしい。
『え、お、おれ、酔ってなんかなかったし。い、飲酒運転なんかじゃなかったし。ただハンドル操作ミスってこうなっただけだし』
 これぞ、まさしく、クズだと思った。
 酔っていたということを認めないなんて、クズのすることだ。
 自分にとって不利益なことは絶対に口にしないなんて、発想がクズすぎる。
 クズだ。
 いや、社会的に見れば、こんな夜中に外を出歩いている僕もクズなんだろうが、クズの度合いが違う。
 僕がクズレベル4ぐらいだったら、きっと、アイツを轢いたやつはクズレベル10(ちなみに、クズレベルは10までしかないので、とてもクズということ)だろう。
 と、そこで、僕の思考はぶつりと切れた。そして、僕は自分の中から、現実に引き戻される。
 僕は目の前の道路に寝転がっている『ソレ』を見つめる。
 『ソレ』は暗いせいか、いまいちどういうものなのかが把握できないけれど、なんだか、大きい。
 『ソレ』までの距離は約三メートル。まぁまぁな遠さ。
 もうちょっと近づいて、『ソレ』の正体を確認してみたくなってきた。
 一メートルほど距離を縮めて、目を細めて『ソレ』を見つめる。
 ……なんか、人っぽい。
 さらに近づく。『ソレ』と僕の距離は約一メートル。
 ……ん、あれ、人だ。
 というか、え?
 にわかに信じられない。
 頭がおかしくなったのか?
 ついに僕の頭はオーバーヒートしちゃったのか?
 まぁ、前々からそういう兆候はあったんだよなー。数学の問題が解けないとか、小説でこいつが何を言ってるのかがよくわからないとか……あ、これ、ただ単に僕がバカなだけか。ははは。
 これこそオーバーヒートだと思って、一度、頭をシャットダウンして、再起動する。
 頭は少し冷えた。
 あれは……女の子?
 それに、たぶん、年齢はたぶん、僕とそう変わらない。
 そう、あれは……制服だ。高校の制服。ここら辺の中学校や小学校であんなデザインの制服はない。
 そして、あれは、いわゆる、美少女って呼ばれるような人だ。顔立ちが整っている。
 え、何があったの?
 えーっと、彼氏に捨てられたのか?
 よくわからない。
 美少女なんだから、きっと人生に疲れて、自殺したいから、車が来て、轢かれるために寝転がってるとか、そういうことはないはず。
 顔がいい人は百パーセント、リアルが充実してるからそんなことはないのだ。
 ちなみに、これは、僕の十五年間生きてきた中での結論だ。
 あと、そういう人に限って、性格がクズっていうのも結論の一つとしてある。
 というわけで、僕としては、あんまりそういう人に近づきたくないのである。
 いや、そんなことは、ひとまずどこかに置いておこう。
 とりあえず、悩んでいるよりも、本人に聞いたほうがいいだろう。そちらのほうがしっかりと理由が判明する。
 寝転がっている彼女の体をとんとんと叩く。
 彼女は、ころりと体を半回転させて、こちらを向いた。
 でも、彼女はしゃべらなかった。
 彼女の目は虚ろだった。
 まるで、この世に意味はないとでもいうかのような、そんな目。
 まるで、この世に希望はないとでもいうかのような、そんな目。
 と、次の瞬間、
「さっさとどっかいってよ!」
 彼女は僕の手を勢いよく払って、そう叫んだ。静寂に彼女の声は響いた。
「……は?」
「だから、どっかいってって言ってんのよ! 聞こえないの? わからないの? 低能なクズね」
 どうもこの人は顔はいいくせに口は相当悪いようだ。まぁ、僕の今までの人生にもそういう人は良くいた。
 というか、きれいな人はどこかが汚い。等価交換ってやつなんだろうか。世の中はうまくできてるなあ。
「そうだ、日本語がわからないなら英語で言えばいいのか。ゲットアウト! 意味わかるよね、そこのクズ」
「それ、『出ていけ!』っていう意味だから。ここ閉鎖空間じゃないから。キミ、もしかしてバカなの?」
「う、うるさいっ! クズにそんなこと言われたくないわよ!」
 どうやら頭が弱いらしい。まぁ、大体他人に悪口を吐ける人は頭が弱い。
「とにかく! どっか行ってくれない? わたしにかまわないでよ!」
「いや、だって、どんな人でも道路に寝転がってる人を見つけたら気になるでしょ」
「ああもう! 気にしないでいいからさっさと私の前からいなくなってよ!」
 といって、彼女はまた道路に寝転がった。
「寒くないの?」
 尋ねてみる。
「……今は夏だから寒くない。冬は寒かったけど」
 彼女はそういったあと、僕に対して背を向けるような体制になった。
「ねえ」
 僕はもう一度ダメ元で話しかけてみる。
「そんなところにいたら、車に轢かれてこの世からさよならだけど、いいの?」
「……いい。死んだっていいのよ」
「なんで? 死んだら親とか悲しくならないの?」
「別にいいのよ、あんなやつらは……それよりもうどっかいってよ。気にしないで。私は私で生きてるし、命を絶つ権利だって私にあるんだし。もうほっといてよ」
「いや、ほっとけないっていうか……」
 ごっ。
 鈍い音がどこかから聞こえた。
 あ。
 頭部に鈍い痛みが走る。徐々に痛みが増していく感覚。
「だから、わたしにはかかわるな……いった……よ」
 そんなとぎれとぎれの声が聞こえた。
 僕が頭部の痛みで道路にうずくまってしまうのはそれからすぐのことだった。

     ◇

 だんだんと痛みが引いてきた。
 そろそろ起き上がれそうな気がする。
 僕は重たい頭を持ち上げるようにして体を起こそうとする。そうしたら、ずきりと痛みが走ったけれど、構わずに僕は体を起こした。
 足元がおぼつかないぐらいの痛みだった。
 そんな中で僕は周りを見回す。
 彼女はもういなくなっていた。
 僕はポケットからスマホを取り出して時刻を確認する。
 午後十時を過ぎていた。
「……は?」
 思わず声が出た。痛みを我慢し続けて約一時間が経過していた。
 それから、メールなどが入っていないかを確認する。
 未読、二〇〇件。
「は?」
 未読メールを片っ端から見る。

 差出人:望結(みゆ)
  ねえ、イマドコ?

 差出人:望結
  ねえ、返事してよ

 差出人:望結
  ねえ、見てるんでしょ

 差出人:望結
  ねえ、返信してよ

 差出人:望結
  ねえ! ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ……………

 こんな調子でメールが何件も入っていた。唯一まともなメールだったのは、

 差出人:母親
  今どこにいるの? 早く帰ってきなさい。

 だった。母親よ、ありがとう。まともなメールを送ってくれて。
 さてと。
 帰りますか。
 僕はずきずきする頭を押さえつつ家へ向かってスマホを片手に歩き始めた。
 とりあえず、望結に返信しよう。僕はメールを打つ。

  あのさ、そういうのやめてください

 よし、OKだろ。
 ぽちっとボタンを押して送信した。
 すぐにスマホをポケットにしまって、少し早めのスピードで歩く。
 ぴろーん。
 すぐに返信が来た。
 10秒未満で返信が来るとは思ってもいなかった。
 スマホを確認する。

 差出人:望結
  デンワスルカラ

「……今からですか?」
 そう、独り言を言った瞬間に。
 ぴろりろぴろりろ。
 着信音がスマホから鳴り響く。発信者、望結。
 一度深呼吸。もう一度深呼吸。そうしてから僕は通話ボタンを押した。
「もしもし、なに? 僕に用でもあるの?」
「……」
「もしもーし」
 そして聞こえる第一声は、
「ころす」
「え?」
「殺して殺して殺してやるっ! もうこうなったら無理心中だっ!」
「えーと……あなたは僕の彼女さんでいらっしゃいます望結さんでお間違えないでしょうか?」
「声聞けばわかるでしょ、このプレイボーイめっ!」
「いや、お付き合いした方はあなたが初めてなんですが」
「どうせ嘘ついてるんだろっ! わかってるんだからねっ!」
「いや、あなたとお付き合いする前に言ったと思うんですが……絶対覚えてるでしょ」
「あーもう! なんでわたしにかまってくれないのっ!」
「んー……なんでだろうね。でも、望結はかわいいと思うよ」
「そ、そういうこと言ってごまかそうとしてない? わ、わたしにはわかるんだからねっ!」
「いやいや、そんなこと微塵も思ってないから。また今度、どっか行こうか。どこがいい?」
「そ、そうだなぁ……か、考えとくっ!」
 ぶつっ。
 何の前触れもなしにいきなり切れた。
「なんだかんだで、望結ってわかりやすいというか……そういうのに弱いよなぁ」
 そして、なんだかんだ言って、望結は可愛い。外見は一言でいうとビッチっぽいのだけれど、中身が結構乙女でかわいいのである。
「まぁ、さっきの人と互角って感じかなぁ……いや、まぁ、さっきの人性格悪かったから、望結のほうがいいかなぁ」
 いやいや、そもそも比べてしまうこと自体だめだ。なぜなら、僕と望結は付き合っているのだから。
 ……理由になってない気がするけど、まぁ、それはいいや。
 さてと。
 帰るか。
 ……それにしても、なんだったんだろう。あの人。

     ◇

 またもや、僕は夜に近所を徘徊していた。
『徘徊』って書くとなんかいかがわしい雰囲気がすごくするけど、単なる散歩となんら変わりはない。
 前に「あの人」と遭遇してから一週間ぐらい経った。
 あれ以来「あの人」とは遭遇していない。
 というか、あれ以来、夜に出歩くことをしてなかったから当然だ。
 それにしても、一週間経った今でもすごく、気にかかるのはなんでなんだろう。死んでも構わないとか言ってたからかな。でも、それはきっと理由じゃないな。
 まぁ、「なんとなく」なんだろう。
 意外と世の中に「なんとなく」は多い。少ないと思われがちだけど、少ないわけじゃない。多いわけでもないけれど。
 人間、感覚や勘で物事を決めることは少なからずあるものだ。
 というわけで、そのなんとなくの正体が知りたいのだけれど、なんとなくはなんとなくだから、はっきりとさせるのはなかなかの難題だ。
 と。
 まぁ、そんな答えのないことに脳機能を使っていると、
「あ、あれ?」
 ちょっとした違和感に気が付いた。違和感の正体はすぐそこの道路に転がっていた。
 そう、またこの間の「あの人」が寝転がっていたのだった。
 よく耳をすませると、小さな声でぶつぶつと何かがお経のように聞こえてくる。
 さらに耳をすませて集中して聞く努力をすると、だんだんと聞き取れるようになってきた。
「死………死ぬ………………今日こそ……死ぬ…………轢かれて死ぬ……」
 聞こえてくる方向には「あの人」しかいない。ということは、発信源は「あの人」だと特定される。
 それにしても、明らかに常人の発する言葉ではなかった。
 病んでいるというかなんというか。……いや、そういうレベルのものではないように僕は見えた。
 狂人や自殺願望者が発するようなソレだった。明らかにそうだった。
 大丈夫なんだろうかと他人のはずなのに心配した僕がいた。
 すぐそこの道路まで歩いていき、また、「あの人」に話しかけてみる。
「あ、あのー……」
「なに?」
 強い不快感をあらわにして、彼女は僕に対してそういってきた。その時の顔は見るにも耐えないほど醜いように僕は感じた。
「あーーーーーーーーーーーーーーーー、もうーーーーーー!」
 彼女はいきなりむくりと上半身を起こして、きれいな黒髪をぐしゃぐしゃとかき回し始めた。
「あああああああああああ、なんなんだよ、なんなんだよ、わたしが死ぬのをそんなに邪魔したいのかよおおおおおおおおお!」
 壊れたロボットのようだった。
「い、いや、そういうことじゃなくて……」
 その一言は届かなかった。
 彼女は近くにいた僕にいきなり襲いかかってきた。
 まず最初、僕に一発、打撃。
 彼女のパンチはあまり威力は強くなかった。それは僕の腹部に当たった。
 拳が少しめり込む。
 でも、威力が強くないせいか、そこまで痛みは感じなかった。
 そして、彼女は拳をひっこめた後、僕の服を両手でつかんで、
「うわああああああああああああ! ねえ。ねえ! あんた本当に聞こえてんのかよ! 死なせてよ! ねえ、死にたいんだよ!」
 そういって、僕の体を前後に振った。
 狂気。
 狂気以外のものは何も感じなかった。ただただ、狂気を感じるのみだった。
「わたしは、わたしはわたしはわたしはわたしは、生きたくないんだよ!」
「なんで?」
 問う。
 なんで生きたくないのがわからない。
 僕は、
 いや、やめよう。人の生死がかかわってるのだから、そんな感傷的になってるときじゃない。
 たぶん。
「あんたにはわからないかもしれないけどね、わたしはね、なにも変わらないし、なにも楽しくないし、なんでやってるのかわからない勉強をさせられてる今が嫌いなんだよ。
 それに、そんな勉強に耐えて大人になったとしても、労働が待ってる。この世界の糧になるんだよ? 精神と体をすり減らしてお金を作って、なんの目標も持たずにただ仕事をこなして、死ぬまで生き続けるんだよ? なんでそんなことをしなくちゃいけないのかがわたしには分からないの。
 この世の中には精神をすり減らしすぎて、鬱になったりする人もいるのに世界は変わらない。
 世界のために、上司のために、世の中の金持ちのためにわたしたち一般庶民は都合のいいように使われて、精神とかを崩壊させられて、そのうち、都合のいいように使われていることに何の疑問も抱かなくなるようになって、わたし達はただただ消費されていくんだよ?
 わたしはね、嫌なの。この世界が。
 だからね、死ぬんだ。死んで、この現実からいなくなるの。みんな、それを『逃げ』っていうんだ。わたしは、これは『逃げ』じゃないって言い張れる。
 だって、苦しいのに、なんでそれに耐え続けなきゃいけないの? なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんで? 苦しいまま生き続けてもいいよ。でもさ、それって、本当に生きてるって言えるの? ただ、いいように使われて、なにも感じずに労働して、飲んで食って寝て起きて…………それって、本当に生きてるの? わたしはね、それは『死』だと思うんだ。
 もう一回言うね……だから、死ぬんだ。わたしは死にたいんだ」
 そういうと、彼女は手を放して、上半身を道路につけた。
 僕は、彼女の話が終わるとほぼ同時に道路にしりもちをついた。
 額のあたりを右手で触る。汗が出ていた。冷や汗だった。
 彼女は本気だ。マジだ。
 死ぬという覚悟が出来上がっていると、僕は彼女の言葉を聞いて思った。
 ただ、そう思った。
 もしかすると、死期が近づいている年老いた人よりもできているかもしれない。
 動悸がする。心臓が押しつぶされるような感覚がやってくる。
 一瞬だけ、本当の「死」が見えたような気がした。
 いやだ、まだ、まだ、まだ死にたくない。まだ消えたくない。死んだら、望結が悲しむ。悲しむところは見たくないんだ。
 僕は、よくわからなくなる。
 死ってなんなんだろうか。
 僕はもうそろそろ消える。
『消失病』
 これが、今の僕が罹っている病気の名前。
 ここ数年で爆発的に広まった、史上最悪の病。
 消失病に罹ると、数年で自分自身の体がだんだんとこの世から消えかかっていくのだ。
 そうして何年か経つと、この世から自分という存在がなくなる。
 僕という存在はもう無くなろうとしている。
 だから、僕は死が知りたい。
 死ぬっていうことが、どういうことなのかを、僕は知りたい。
 僕が死んだ……消えたとして、周りのみんなはどうするんだろう。何年か経ってしまったら僕は忘れ去られてしまうのだろうか。
 そこで、僕にある考えが浮かぶ。
 落ち着いてきたので、一度立ち上がって、もう一回しゃがみ込む。そして、
「ちょっと、話を聞いてくれない?」
 寝転んでいる彼女をトントンとたたいた。
「なに?」
 不快そうな顔をして、彼女は僕のほうを見た。
「あのさ、キミ、死にたいんでしょ?」
「なにわかりきったこと聞いてるの。馬鹿じゃないの」
 罵られた。
「それでさ、そんなに死にたいんだったら、キミの自殺、手伝ってあげるよ」
「は? 何言ってんの? バカじゃないの? 手伝ってくれるのはありがたいけど、どうせ、お金とか要求するんでしょ」
「しないよ。すばらしき善意で『手伝ってあげる』って言ってるんだ」
「そう、じゃあ、手伝ってもらうから」
 彼女はそういって、また、元の方を見る。
 暑い、夏の夜のことだった。

     ◇

 なぜ、僕が彼女の自殺を手伝うことにしたのか。
 それは、彼女の目的と僕の目的は表裏一体だったからだ。
 彼女は死にたいという願望を持っていて、僕は死ぬことがわかっているので、死についてもっと知りたい。
 この相互関係を満たすためには僕が自殺を手伝うことが一番だと思ったから、そうすることにした。

     ◇

「手伝い、これからよろしく」
 車が全然やってこない通りに寝転がっている彼女は、僕の顔を見ずに、そう言った。
「ああ、よろしくね」
 僕もそう言った。

 こうして、僕は、死に関わるために、彼女の自殺を手伝うことになった。




第一話 終了――第二話につづく――


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